傍流雑記帳

「本流」をはずれたら、気づいたことがたくさんあった。

日本はどうして自殺者が多いのか

昨年、しばらくバンコクに滞在していた時のことです。

倦怠感がひどい日が続き、何をするのも億劫でなかなか動けなくなってしまいました。

バンコクは、世界中から落ちこぼれさん達が集まっているので、そのまま、自堕落な生活を送っていても、誰からも後ろ指さされることもなく、居心地は悪くないのですが、ビザの有効期限が迫ると、一旦、出国しなくてはいけません。

最近は、陸路でのビザランはチェックが厳しいそうなので、空路でミャンマーカンボジアに行き、数日滞在して、戻ってくるというパターンだったのですが、とにかく全身の力を振り絞って旅に出るという感じでした。

 

そんなわけで、一旦帰国したのですが、とにかく疲れるというのは、相変わらずです。

毎年、受けている区の検診では、異常がなかったので、もしかしたら、いま話題の「男性更年期障害」かとも思い、検査を受けてみたのですが、これも異常なしです。

暗い気持ちで過ごすことが多くなり、そのうちに、漠然と死にたいと考えている自分に気づいて、困惑しました。

高いビルに登ると飛び降りたくなるし、飛行機に乗ると「落ちたらいいな」と思ったり、やっぱり縊死が一番確実なのかな、などと考えたりもしました。

 

「これはもしかして鬱?」と思い、いつもお世話になっているN先生に相談することにしました。

新宿でメンタルクリニックを営んでいるN先生には、常用している睡眠薬の処方箋を書いてもらっていて、お付き合いは、もう4~5年になります。

同じ同性愛者同士ということもあり、なんでも気軽に相談できる間柄です。

睡眠薬の長期連用については、「依存性が生じて良くない」と言われていますが、なかなか断薬できません。今は、短時間型のマイスリーと長時間型のサイレースを適宜使い分けています。

 

相談の結果、「レクサプロ」という、比較的新しい抗鬱剤を服用してみることになりました。

実は、抗鬱剤を飲むのは、これが初めてではありません。16年ほど前に「パキシル」という薬を服用していたことがあります。

その時は、パニック発作をたびたび起こし、そわそわして部屋の中を歩きまわり、食欲もなくなり、極度の不眠に襲われて、このまま死んでしまうのではないかと思いました。

明らかにおかしいという病識はあったのですが、鬱病とは理解できず、最初は催眠療法に頼ったりして、時間を無駄にしてしまいました。

パキシル」の飲み始めには、喉の渇きや吐き気などの副作用がひどかったですが、「レクサプロ」の副作用はそれほどひどくないということだったので、服用を決めました。

 

「レクサプロ」も、最初は下痢などの副作用がありましたが、「パキシル」に比べれば、はるかにマシでした。

ただ、睡眠時間が短くなってしまったのは、不眠がちな私としては、ちょっとつらい感じです。この薬は、「眠くなる」という人が多いようですが、理論的には脳を覚醒させる作用があるということで、私も3~4時間で目が覚めるようになり、一時減薬していた睡眠薬も、また元の量に戻ってしまいました。

服用し始めて2ヶ月以上経ちますが、とりあえず希死念慮はなくなり、しなくてはいけない事はきちんと出来るようになり、倦怠感も以前ほどひどくなくなりました。

結果的には、薬を飲んで良かったと思います。前回、引越しについて書きましたが、服用なしでは転居に踏み切れなかったかもしれません。

 

以前からよく考えることのひとつに、「なぜ日本人の自殺率は高いのか」ということがあります。

 

2017年の自殺者は21,321人で10万人当たり約20人ですが、これは東欧諸国などと同レベルで、欧米の先進国と比べると突出して高い数字です。(アメリカ13.4人、イギリス7.5人、ドイツ12.6人)

 

理由のひとつとして考えられるのは、日本人の場合、組織への帰属意識同調圧力が極めて強く、失敗を許さない風土があるため、いわゆる「認知の歪み」(簡単に言うと、思い込みにより、物事を現実よりも悲観的にとらえてしまう状態)を生じやすく、自殺の危機に陥ってしまうのではないかということです。

 

もうひとつ、経済的な問題もあると思いますが、日本よりはるかに貧しいはずの途上国の自殺率が、なぜ低いのかも、考えてみる必要があります。

以前、フィリピンのスラム街を訪ねた時、住人達が思いのほか幸せそうだったのにビックリしました。もちろん、大変なことも多いでしょうが、「私たちは、それなりに楽しくやってますから」という雰囲気で、ちょっと羨ましく感じました。ちなみにフィリピンの自殺率は世界で162位だそうです。

 

日本では、貧困に対するセーフティネットが整備されているはずですが、それに頼ることを悪とする風潮もあり、必ずしもきちんと機能していないようです。(「貧困ビジネス」が介入するとスムーズにいくそうですが・・・)

これは、絶対貧困というよりは、「世間」における相対貧困の問題で、それが幸福度の低さに結びついているのではないかと思います。

 

また、最近、聞いた新しい説は、「日本人は遺伝的にセロトニンが不足しやすい」というものです。

セロトニンは脳内の神経伝達物質で、これが不足すると鬱病になると言われているものです。

「レクサプロ」や「パキシル」は、いずれもSSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれ、脳内のセロトニンを増やす作用があります。

この「遺伝的セロトニン不足説」については、「ほんとかなあ?」という感じですが、脳の働きはまだ分かっていないことも多いですから、あり得なくはないのかもしれません。

 

理由はいろいろあると思いますが、個人的には、日本の自殺者のうち、かなりの人が鬱状態にあるのではないかと考えています。

いまは、精神科も「心療内科」や「メンタルクリニック」を名乗るところが増えて、通いやすくなってきました。

「なんとなく、おかしいな」と思ったら、是非、相性がいいお医者さんを見つけて、相談して欲しいと思います。