傍流雑記帳

「本流」をはずれたら、気づいたことがたくさんあった。

「夢のマイホーム幻想」、もうやめませんか。

先日の台風19号、すごかったですね。被害にあわれた方々のことを思うと心が痛みます。

 

天災が起きると、いつも考えるのが、「家を所有することのリスク」です。

賃貸の場合、たとえ家屋が全壊となっても、損害は基本的に大家が負うことになりますが、ローンを組んだ自己所有だと人生に関わる一大事となります。

 

「住まいは、賃貸が得か、買うのが得か」という議論はずいぶん前からありますよね。

「その不動産がどのくらいの利益を生むか」を計算する収益還元法をもとに、買った場合も自分で自分に家賃を払うとする「帰属家賃」の考え方に立つと、購入価格が適正であれば、買っても借りても大して変わらないということになるはずです。

しかし、「買うと家という資産が残るが、家賃はドブに捨てるようなもので、もったいない」というのが不動産業者定番のセールストークです。果たしてそうでしょうか。

 

分譲不動産の情報誌などを見ると、賃貸VS分譲のシミュレーションがよく掲載されていますが、当然ながら、「買った方が得」という方向にバイアスがかかっていますので、天災による被害や、人口減や老朽化による不動産価格の下落、あるいはリストラ等による収入の激減など、ネガティブな可能性は考慮されていません。

そういったリスクをヘッジできるのであれば、家賃という「レンタル料」を払うのも、私は決して無駄ではないと思います。

不測の事態が起きてもフレキシブルに対応できるという点で、賃貸は断然有利で、流動性が低い持ち家では身動きが取れなくなるかもしれません。

 

多くの動物には、自分の縄張りを確保したいという本能がありますから、人間にも、そういった感情があっても不思議ではありません。特に、子供がいる家庭では、持ち家で落ち着いて子育てがしたいという願望が強いようにも感じます。

でも、子育ての期間など、せいぜい二十数年です。そのために30年以上のローンを組むのは、どうなんでしょう。核家族化で老夫婦2人になった時、広い家を持て余すというケースも多いようです。

歳をとると家が借りられないという議論もありますが、今後、「世の中、年寄りばかりで空き家は急増」ということになれば、需給バランスをとるために、行政あるいは民間企業で様々な方策が取られると予想されます。

 

戦前、都心部では賃貸に住むのが一般的だったそうですが、高度経済成長期を経て、賃貸→分譲マンション→一戸建て購入で「住宅すごろく」上がりというのが理想のライフスタイルとなりました。しかし、これは、不動産価格の値上がりが見込めたバブル期までの話です。

いま、高齢者への富の偏在が話題になっていますが、彼らは1980年代前半までに持ち家を手に入れることが出来たというのも、経済的余裕の一因だと思います。

 

今後は、大都市の一等地以外は値下がりする一方でしょう。もちろん、急激なインフレが進むようなことがあれば、不動産もつられて値上がりする可能性もありますが、それは不動産の価値が上がるわけではなく、貨幣価値が下がるだけの話ですし、インフレに伴う金利上昇も考慮すると、不動産の上値も抑えられると思われます。

 

と、ここまで賃貸をプッシュしてきた私ですが、実は過去にマンションを所有していたことがあります。

2004年に東京の郊外に70平米の新築マンションを購入しました。当時は、厚労省の外郭団体に勤めており、年収もそこそこあったので、ローンの審査も楽勝でした。

ローンの返済と管理費、修繕積立金、固定資産税などを合計すると1か月当たり14万円ほど払っていたことになります。

ところが、6年後、事態は急変します。勤務先の事業廃止が決定し、早期退職を余儀なくされたのです。それまでは、「安定した職場で目指せ、定年!」と思っていたので、まったく想定外の出来事でした。

マンションは、賃貸に出すことも考えたのですが、空室リスクが怖いので、売却することにしました。

新築時の価格から200万円ほど下がったものの、まずまずの価格で売却が決まりましたが、契約日前日になんと東日本大震災が起こり、本当に焦りました。

買主さんが良い方で、予定通り売却できましたが、もし、少しでもタイミングが遅れていたら、不動産価格の下落に伴い、売却価格が大幅に下がっていたでしょう。

 

今は、家賃4万7000円のアパートに住んでいます。幸い1人暮らしなので、駅からちょっと遠いことを除けば不自由はありません。もうだいぶ長く「半隠居生活」を送っていますが、あのままマンションに執着していたら、かなり困窮していたでしょう。

同じころに退職した元同僚の中には、バブル期にマイホームを購入し、売却してもローンを完済できないということで、困っている人が何人もいました。残念ながら、失意のうちに亡くなった人もいます。

 

バブル期は、「株と不動産は永遠に上がり続ける」という「神話」が大真面目に語られていたおかしな時代でしたが、今の時代でも、「マイホーム購入」となると、テンションが上がってしまい、資産としての見極めが甘くなりがちです。ほぼ値下がり確実な株を借金して買う人はいませんが、マイホームだとそれをやってしまうんですね。しかも、資産のほとんどをそのマイホームが占めるというのもよくある話です。

 

「家を持って一人前」などと言われたのは、もう過去のことです。人生、何が起きるか、分かりません。「夢のマイホーム」が「悪夢のマイホーム」となりませんように!